コルシカ島で「十字架」撤去命令で波紋

フランスのコルシカ島南部にある人口60人ほどの小さな村カスクアラで、村の入り口の共同敷地に設置されている木製の十字架を巡り、住民の間で激しい対立が起きている。裁判所が今月10日、フランスの「政教分離法(1905年法)」に抵触するとして村長による十字架維持の決定を取り消したことが発端。世俗主義の厳格な適用を求める声と、「島の伝統とアイデンティティの象徴」として維持を求める声が衝突し、問題はコルシカ島全体の政治・アイデンティティ論争に発展している。
裁判所の決定を受け、島内では「カスクアラの十字架維持」を求める署名が4万2,000筆を超えるなど、大規模な抗議の波が広がる。現場の十字架の周囲には、「十字架を取り除くことは、コルスを消すことだ」と記された横断幕が掲げられている。
ポール=アントワーヌ・ベルトロッツィ村長は「十字架が元の場所にとどまるよう、可能な限りの法的対抗手段を検討する」と表明。元アジャクシオ市長のローラン・マルカンジェリ氏ら政治家も、「キリスト教の十字架は、まず島の村々の伝統だ」として村長に全面支持を表明した。
一方、カトリック教会のフランソワ・ブスティージョ枢機卿は「十字架は分裂の動機であってはならない」と、沈静化を呼びかける異例の事態となっている。県知事も、法律に沿った解決策を探るため、村への支援を約束した。
しかし、この問題は単なる法的論争にとどまらない。政治学者のティエリー・ドミニチ氏は、一部の集団が住民の感情を利用し、信仰、文化、民族性を結びつけた「アイデンティティ・ナショナリズム」を推進していると指摘する。実際、極右やナショナリストを標榜する団体がカスクアラで集会を開き、十字架を政治的な旗印として利用する動きが顕在化しており、地元の高校生らもこれに同調するデモを行うなど、事態は複雑化している。
【出典】20minutes 10月21日配信記事 『Corse : La croix installée à l’entrée de ce petit village divise les habitants』(https://www.20minutes.fr/societe/4180513-20251021-corse-avenir-croix-installee-entree-petit-village-divise-habitants)